彼と台湾を旅していたとき、すぐに仲直りしたが一度だけ口喧嘩をした。理由は彼のヤキモチ。以前にも書いたことがあるが、とにかく彼はヤキモチ焼きだった。
人だろうがモノだろうが、とにかく一緒にいても年がら年中ヤキモチを妬いていた。
それは中正紀念堂という台湾の歴史的建造物を見学した時の出来事。中正紀念堂とは中華民国(台湾)建国初代から第5代にわたって総統職を務めていた蒋介石を顕彰するためにたてられた建築物。白い壁に紺碧の瓦がとても美しい巨大な建築物。
この中に、蒋介石のこれまた巨大な銅像があるのだが、その銅像の前に台湾の陸海空軍のエリート将校たちが2名ずつその銅像を警護している。その2名の衛兵は1時間事に交代するのだが、警護中は微動だにせず、それは見る者を驚かせる。そして、その一時間事に行われる衛兵の交代式がまた素晴らしい。
一糸乱れることなく行進してくる衛兵。今まで警護を行っていた衛兵も監視台から降り、持っている銃をまるでバトンの様にクルクル回したりと、独特の交代式を見ることが出来る。
この警護に当たる将校たちは各軍のエリート中のエリートらしく、それは精悍な顔立ちでとても格好いい。
何となく読んで下さっている方々もピンと来たかも知れないが、そう、彼はこの衛兵にまでヤキモチを妬く始末。
僕は一糸乱れることなく行進してくる彼らをジーッと眺め、凄いなぁと思っていた。確かに行進してくる衛兵も監視台にいる衛兵も、今で言う「イケメン」である。そりゃそうだろう、彼らはエリート中のエリートなのだから。天は二物を与えずと言うが、そんなことは無い。二物も三物も与えてるなぁと思う。
確かに見ていた僕も、「格好いいなぁ」とは思ったが、これはもう全然次元の違う「格好いい」であって、付き合いたいとか好きだとかそう言うのとは全然違う。ある種、憧れのようなレベル。
大体、僕には大好きな彼がいて、こうして結婚までしているんだから、衛兵の彼らを見てどうこう言うのは全くない。
それでも彼はダメ。絶対ダメ。
「ケイタロウ、行くぞ」
「え〜もうちょっとで終わるよ」
「いいから行くぞ」
彼は僕の腕を引っ張る。僕はふくれっ面で彼に言った。
「もうちょっとで終わるのに」
「ダメ」
「何で?」
「何でも」
彼はこういうところは本当に子供っぽかった。言い出したらきかない。
「もう!なんでそんなことにまでヤキモチ妬くのっ!馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しいとはなんだ!」
「折角、台湾まで来て観光してるんだよ。日本じゃ見られないんだよ」
「だめ。やっぱりヤダ」
「ケイタロウは俺だけのものなの!」
「誰も取りゃしないよ。僕なんて…」
「そんなのわからないだろ。お前は自分が解ってない!」
「あのね(彼が)思うほど、僕、全然イケてないしモテないから心配しないで」
「ケイタロウが俺以外の人を見るのもイヤなの!」
「…」
もう、これはケンカにもならない。一方的にダメなんだから…。こんな言い争いを何度したかわからない。他の事に関しては全て僕の思うとおりにしてくれたが、この件に関してだけは頑として譲らず、とにかくすぐヤキモチを妬いてふてくされた。
ただその後、僕が不機嫌になると、彼はいつも僕にちょっかいを出してきて僕の機嫌を伺った。
「なぁ、そんなに怒るなよぉ」
「知らない!」
彼はしょんぼりしていた。自分でもわかっているのにどうしても我慢できないようだ。彼の妹さんにもことある事に言われていた。
「あんまりケイタロウ君を縛ると嫌われるよ」
まぁ、僕にしてみればとっくに許している訳で、ちょっとは反省しなさい的な意味でふてくされているだけ。
これでしばらくは大人しくしてくれるといいんだけど…と思って毎回怒るが、全然改善されない。もうこれは僕の貧乏性と一緒で諦めるしか無いレベル。
折角、彼と一緒に来ている旅行。想い出は楽しい方が良いに決まっている。いい加減許してやるかと、
「もう、変なヤキモチ妬かないって約束する?」どうせ守れないだろう約束を言うと、
「するするする。何でもする」
もう、この場当たり的な返事の段階で「そんな約束出来ません」って言っているようなものだが…。
「そんじゃ許してあげる」
すると彼は嬉しそうにニッコリ笑い、僕の肩を抱いて顔をのぞき込む。
「ホントに怒ってない?」
「もう怒ってないよ」
彼は僕の頬にキスをすると、
「さ、そんじゃ次は何処行く?」
さっきまでのしょんぼり顔は何処へやら、彼は嬉しそう。
僕は「こりゃダメだ…」彼に気付かれないように小さい溜め息をつき肩を抱く彼の顔を見上げた。
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